彼女はもっともふさわしいガウンのために何時間もさんざん迷ったあげく、まばゆい純白の床までとどくウルゴ製のドレスを選び出した。もっともウルゴの衣服は彼女の趣味からすればいささか地味すぎた。たしかに慎み深く見せたかったが、そこまで徹するつもりはなかった。思案のあげく、彼女はガウンの袖を取り去り
中醫診所、襟ぐりの部分にちょっとした手を加えた。胸とウェストにはひどく手の込んだりぼん結びをつくり、細い金色の帯でちょっとしたアクセントを加えた。努力の結果を念入りに点検した王女は大いに満足した。
だが今度は髪を何とかしなければならない。いつものくしゃくしゃに垂らしっぱなしの髪は絶対にだめだ。まず頭の上にゆるく巻きあげて、そこから優雅に肩へ垂らし、首から下の清純な白に、ひとはけ鮮やかな赤銅色を加えれば効果満点だろう。王女は腕を長く上げすぎて痛くなるまで髪をいじった。すべてを終えた王女は、純白のガウンと燃えるような髪の色がもたらす効果と上品な取り澄ました感じが出ているかをきびしく検分した。なかなか悪くはないわ、と彼女はひとりごちた。これを見たらガリオンだって目が飛び出るほど驚くにちがいない。小さな王女はすっかり悦に入った。
ついにその日がきて、前の晩ほとんど眠れなかったセ?ネドラはすっかりおなじみの場所になってしまったゴリムの書斎でいらいらと落着きなく座っていた。ゴリムは長い巻物の片方を開き、片方で巻き戻しながら王女に読んできかせた。だがかれが読んでいる間にも少女はそわそわしたようすで、ぼんやりと巻毛の端を噛んでいた。
「今日はまたずいぶんと落着きがないようだね、お嬢さん」かれは言った。
「だって長いことあの人――あの人たちに会っていないんですもの」彼女は慌てて言いわけをした。「ねえ、わたしの格好本当におかしくない?」彼女は同じ言葉をこの朝だけでも六回以上繰り返していた。
「くみえるよ」かれは安心させるように言った。
彼女は晴れや。
そのときゴリムの書斎に下男があらわれた。「聖なるお方よ、お客さまがお着きです」男はうやうやしげに頭を下げながら言った。
セ?ネドラの心臓がどきどき波打ちはじめた。
「それではわたしたちも出迎えにいこうかね、お嬢さん」ゴリムは巻物を脇に置いて立ち上がった。
セ?ネドラは椅子から飛び出してドアへ駆け出していきたい衝動と戦った。だが、彼女は鉄のような意志で自分の心を押さえつけた。彼女はゴリムと並んで歩きながら心の中で言い聞かせていた。「威厳をもって慎み深く。王族としての気品を忘れずに」
ゴリムの洞穴に入ってきたなつかしい仲間たちは旅の垢によごれ、疲れているようすだった。そこには見知らない顔もいくつか混じっていたが、彼女はただひとつの顔だけを探し求めた。
ガリオンは最後に会ったときとくらべると大人びていた。いつもきまじめな表情を浮かべたその顔には、今までなかったような落着きが漂っている。離れている間に何かが――それも重大なことがかれの上に起こったにちがいない。そんな重大なときに自分がのけ者にされていたことを思って、王女は胸にかすかな痛みが走るのを感じた。
次の瞬間、彼女の心は凍りついた。かれのすぐそばにいるあのひょろ長い女はいったい誰なのだ。何でガリオンはあの図体ばかり大きな雌牛を、あんなに優しい目で見たりするのだ。静かな湖水の向こうにいる不実な男をにらみつけながらセ?ネドラは歯を食いしばった。こうなることは最初からわかっていたのだ。彼女が目を離したとたんに、かれが最初に出会った女の子の胸に飛び込んでいくだろうということは。よくもそんなことひどいことができるものだ。何てひどい!
湖の向こう側の人々が土手道の上を近づいてくるにつれ、セ?ネドラの心は沈んだ。背の高い娘はたいそう美しかったのだ。そのこげ茶色の髪はつやつやと輝き、目鼻立ちは完壁だった。セ?ネドラはどこかに疵《きず》や欠点はないかと、娘の頭からつま先までをじろじろ眺めまわした。それに何という優雅な身のこなしだろう! その滑るような美しい動きにセ?ネドラは絶望の涙を浮かべかけた
願景村 洗腦。
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