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か不思議であった

というのは、この話のなかには、インスマウスの奇怪さに根ざしながら、同時に創造的な想像力によって洗練されるとともに、外来系の伝説の断片がふんだんに綾《あや》をつけている一種原始的な寓話がふくまれているように思われたからだ。本当をいうと、この話には、なにかしっかりした具体的な根拠があるなどとは一瞬も信じられなかったが窝轮、それでもやはり、例のニューベリーポートで見たあの嫌な冠に非常によく似た奇妙な宝石に、この話は関係があるということだけ見ても、この話には、まじりけのない真にせまった恐怖を感じさせるものがあった。おそらくこの装飾品も、結局のところ、どこか妙な島から渡ってきたものであろうし、こういう荒唐無稽なお話も、こののんだくれ老人のホラというよりはむしろ、もはや過去の人たるオーベッドがみずからザドック老人に吹いたホラなのかもしれないのだ。
 わたしがザドック老人に、ウィスキーのびんを渡すと、彼はこれを最後の一滴まですっかり飲みほした。どうして彼がこんなにウィスキーに強いのというのは、彼のかん高い、ぜいぜいいう声には、ロレツの回らないようすは全然なかったからである。彼はそのびんの口をなめると、それをポケットのなかにすべりこませ、それからしきりに一人で合点をしながら、静かな小声でひとりごとを呟き始めた。その呟きを一言一句も聞き洩らすまいとして、わたしはぴったりと彼に寄りそった。わたしには、その汚れた不精ひげの蔭に、皮肉な笑いが潜んでいるのが見えるように思われた。そのとおり――彼は事実、的確なことばで考えをまとめようとしていたのだ。わたしにも、そのことばのバランスがよくとれているのがはっきりとわかった。
「かわいそうにマットは――さよう、マットはオーベッドの計画に反対し――町の人たちを自分の味方につけようと努め、牧師たちと長健康管理いあいだ相談したり、いろいろやってみましたが――結局|無駄骨《むだぼね》で――組合教会派の牧師は奴らが町から追いだしてしまい、メソジスト派の牧師はみずからやめ、バプチスト派の堅ぶつ牧師バブコックの姿も見えなくなり、――これはエホバの神のお怒りでした――わたしはまだ年端《としは》もいかない小さい子供でしたが、ちゃんとこの耳で聞き、この目でしかと見届けたのです――ダゴンとアミュタルテ(豊作と生殖を司る古代セム族の女神)――サタンとパールセブブ(ともに堕天使の一人、悪魔中の一位と二位)――金の犢《こうし》(イスラエルの王ジェロボウアムが建てた金の偶像)とカナンやペリシテの偶像――バビニヤの忌まわしい偶像――メネ、メネ、テケル、ウプハルシン――」
 老人はまたしても口をつぐんだ。そのうるんだ青い眼のようすから、どうやら老人が人事不省《じんじふせい》におちいるのではあるまいかとわたしは懸念した。が、彼の肩を静かにゆり動かしてやると、驚いて目を覚まし、わけのわからないことばをぺらぺらとしゃべりだした。
「おい、おまえさんは、わたしのいうことを信じ熊證牛證ないんだな? ははあ、なるほど、それではいったい、オーベッド船長と二十数人の連中が、真夜中に、魔の暗礁に舟を漕いで行って、風向きのいい晩には町中に聞こえるような大声をだして歌を歌ったのは、どうわけですかね? さあ、ど
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