「それだったらもうここに用意してあるわ」彼女は脇のテーブルから小さなビロードの箱を手に取った。「これを王女にあげてちょうだい」そう言っておばさんはガリオンに箱を手渡した。
箱のなかにはガリオンのものと比べてやや小ぶりな銀製の護符が入っていた。その表面には〈アルダー谷〉に生えている巨大な木を模したきわめて精巧な彫りものがほどこされていた。木の枝々のなかに王冠の図案が織りこまれていた。ガリオンは右手に護符を持って、かれのものと同じような力があるのかどうかを見きわめようとした。たしかに何かが感じられるのだが、かれのそれとはまったく異なった感じがした。
「ぼくらの持ってい」かれは考えた末、こう言った。
「そうだ」ベルガラスが答えた。「もっともまったく違うというわけではないがな。セ?ネドラは魔術師ではないので、われわれと同じものを持つことはできないのだ」
「まったく違うわけじゃないと言ったけれど、じゃあやっぱりこれにも何らかの力があるのかい」
「まあ、ある種の洞察力を与えるとでも言っておこうか」老人は答えた。「ただし使い方を覚えるまで辛抱強ければの話だが」
「ぼくたちが話している洞察力というのは具体的になにをさすの」
「普通だったら見ることも聞くこともできないものが知覚できるようになるということさ」
「王女が来る前にぼくが知っておいた方がいいことはあるかい」
「単に先祖伝来の家宝だといえばいいわ」ポルおばさんが言った。「じっさい、それは妹のベルダランのものだったんですもの」
「そんな大事なもの受け取れないよ」ガリオンは反対した。「セ?ネドラには何か別のものをやることにする」
「いいえ、ベルダランがぜひとも彼女に受け取ってほしいと言ってるのよ」
ガリオンはとうの昔に死んだ人間を、まるで生きている者のように言うおばさんの口ぐせにいささか当惑して、それ以上何もいわなかった。
そのときドアに軽いノックの音がした。
「お入りなさい、セ?ネドラ」ポルおばさんが言った。
小さな王女は首の部分をあけた緑色の質素なガウンをまとい、顔にはいくぶん慎み深い表情を浮かべていた
煙雨濛濛攜酒言歡獨向黃昏。
PR